第1回日本建築設計学会賞+大賞決定公開審査会

2016.04.05

レポーター:竹村優里佳+日本建築設計学会事務局

第1回となる日本建築設計学会賞の大賞を決定する公開審査会が、大阪・梅田で開催された。選考委員として、古谷誠章氏、竹山聖氏、五十嵐太郎氏、倉方俊輔氏を迎え、事前に東日本、西日本、会員投票という3枠から6組の受賞者を選出されている。この審査会の目的は、その中から、大賞1作品を決定することである。

最初に、選考委員でもある竹山聖会長から、賞の趣旨や選考プロセスが説明されると、早速、受賞者のプレゼンテーションがはじまった。それぞれが自身の展示の前で発表を行うという今回のスタイルは、「開かれた賞」を目指すという設計学会の理念が強く反映され、公開審査会ならでは発表風景となっていた。会場には建築学生をはじめ、建築家や、受賞作品のお施主さんも集まっており、そこに選考委員と発表者も入り混じってのプレゼンテーションである。

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各々の展示は、自由に使える1800mm角の大きな模型台と展示空間を緩やかに区切る6枚のパネルの位置を、出展者が自由に構成することになっている。それらが、まちの中を歩きまわるような散策性をもつように配置され、6人の個性を出しつつも、一体感をもつように工夫されていた。

出展作品は、西原の壁(桑原賢典)、裏庭の家(松岡聡+田村裕希)、石切の住居(島田陽)の3作品が「住宅」、カトリック鈴鹿教会(竹口健太郎+山本麻子)、日本キリスト教団東戸塚教会(平田晃久)の2作品が「教会」、四条木製ビル/第15長谷ビル(河井敏明)が「オフィスビル」といったように、用途や規模も様々ながら、それらを超えた建築の価値を提示することが求められたのだと言えるだろう。

 

≪プレゼンテーションの様子≫

1.河井敏明 《四条木製ビル/第15長谷ビル》
河井「ファサードだけではなく、建築を作るにあたっての足場なども含め木材で作り、木材のマーケットを作ります。低層では町屋などわかりやすい木材を用いたタイポロジーがあるが中高層では目標となるものがない。そこで21世紀のこの四条の街並みの指標としてのプロトタイプの提案をし、さらには日本性を提案する中で京都をスタートとして考えました。」

2.平田晃久 《日本キリスト教団東戸塚教会》
平田「小さなプロテスタントの教会。限りなくイエに近く、教会というよりは人の集まる場所。限りなくシンプルになるような鱗のような屋根。それによりバラバラと光が入ります。(教会としては両サイドが開いているのは珍しいが?という質問に対して)まちや外との境界を考えようとした。インティメントで場的な光の在り方の方が相応しいと考えました。」

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3.松岡聡+田村裕希 《裏庭の家》
田村「既存の住宅に対する増築で、敷地の中の何処に増築するかというところから始まりました。そこで選んだのは、母屋の裏庭だが、三面が駐車場に囲まれ開けているので岬の先端のような場所。 狭小住宅に於いてプランを制約しない半螺旋階段を用い、登るルートによって登り方が変化する階段を設計した。」

4.島田陽 《石切の住居》
島田「いつも建築が建つことで周囲が再解釈されるような建築の建ち方を追求しています。ここでは80年以上歴史がある住宅地で、新旧がモザイク状に入り組んでいるのですが、それをまずいいものとすることから設計を始めました。」

5.桑原賢典 《西原の壁》
桑原「敷地は都心の渋谷で幅が3mほどの住宅で、狭いところでは2.7mほどのところもあります。両側が道路に挟まれていて人通りはかなり多い特殊な敷地。そこに両側を壁によって挟む。地下から地上までひと続きの階段でつながる。プランとしては単純ですが、中は動的な動きや窓からの視界によって空間的には広く感じます。」

6.竹口健太郎+山本麻子 《カトリック鈴鹿教会》
山本「三重県鈴鹿市に40年前から建つ教会の建て替え。教会の拡張と同時に地域のカトリックコミュニティのシンボルとなることが求められました。3つのボリュームを一つの滑らかな屋根でつなぎ、持ち上げ、1階を駐車場としました。」

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6組の発表が一通り終わると、休憩を挟んでから、再度パワーポイントを用いたプレゼンテーションが行われた。ここでは、発表者に事前に伝えられていた「思想を語ってほしい」という選考委員からのメッセージに答えるかたちで、単体の作品を超えた建築家としての思想が提示される。それとともに、内部空間を動画や写真で具体的に見せたり、出展作品以外を見せるなど、前段階が、周辺環境やプログラム、空間構成の説明であったのに対して、異なる切り口からプレゼンテーションとなっていた。

こうした2段階のプレゼンテーションを経て、大賞決定のための4名の選考委員によるディスカッションがはじまった。

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第1回の賞であるため、古谷氏は、「作品だけでなくその背後にある思想を語るという二部構成で決める賞は他とは少し異なり、そこにこの賞の可能性があるかもしれない」と述べたうえで、「言葉にならないこともあるが、言説を用いてまだ見ぬものの価値を問うのは重要である」と続け、この賞の評価基準が事前に示し合わされたものではなく、この場所で議論とともに考えていかなければならないということが、まず会場全体で共有された。

それに続けて、倉方氏は「『日本建築設計学会というものは何か?』という顔をつくっていかなければならないと考えていて、いま建築設計とは何か、を再考できるものを選びたい」と述べるとともに、「建築が建つことでその場所の「顔」をはっきりさせるという意味で、この6作品から言えることはアイコン性なのでは?わかりやすい形かというよりは、場所性や土地性に対する応答のあり方において、桑原さんの場合は狭く、河井さんの場合は広い範囲ですが」と整理する。
また竹山氏はピーター・アイゼンマンの言葉を引用し、「プロジェクトとプラクティスの違いは、『プロジェクトは―私が世界を変える―、プラクティスは―世界が私を変える―である」と述べ、プロジェクトを評価するものの一つとして、実現を前提とする案の審査するSDレビューを対なる例にあげ、学会賞は「プラクティス」として世界を変える試みを選ぶものになるのではないか、という見解を提示した。

その後、2時間に及ぶ議論を経て、最終的に大賞は石切の住居(島田陽)に決定された。選定の理由について、五十嵐氏は「(島田さんの)『積極的に誤読する』という発言にもあったように、周囲を再解釈したり、緩衝できるような建築の良さが石切の住居にはある」と述べ、新たなマニフェストを孕んだ作品という意味で、島田氏とともに松岡氏・田村氏の2作品を推した。
また古谷氏は、「古いものに対して何かを付け加えることで生まれる新旧の価値」というテーマに取り組んでいたカルロ・スカルパを例にあげ、「所与を読み解き、新しいものをスーパーインポーズすることで出来る新たな価値というものを問いたい」と自身の評価基準を明らかにした上で、河井氏と島田氏の両作品を高く評価した。
また倉方氏は、「ポストモダンの世代を経験した中で、建築は矛盾したように思えるものが同居する、というのが一つの建築の良さだと言えるとすると、島田さんの作品は、多様なものを一つ言葉では言い表せない建築という形で表現している」と述べ、同じ観点で、松岡氏・田村氏の作品をあわせて評価した。
3人の選考委員が島田氏の作品を推したのを受けて、竹山氏は、「僕はこれまで周囲に対する悪意しかありませんでした(笑)が、島田さんの周辺を愛する、という言葉は驚きだった」と自身との対照から率直な感想を吐露しつつも、桑原氏の作品を高く評価しているとコメントした。

石切の住居は、多くの住宅作品を手掛けてきた島田氏自身も最も悩んだと語る作品であるが、設計に取り組む思想も含めて評価された第1回の大賞作品は、今後の賞の一つの方向を示すものになったと言えるのではないだろうか。

(より詳細なディスカッションは、来年出版予定の作品集に収録予定です。)

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