ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展2016帰国展「いま、そこにある、住まいの風景」

2017.04.27

2016年にヴェネチア・ビエンナーレの公式関連イベント「TIME-SPACE-EXISTENCE」展で展示された、日本の現代住宅展が、この春大阪に帰国した。それを記念した帰国展が、梅田のASJ UMEDA CELLを会場として、4月13日~19日の会期で開催された。
会場には、全国各地にすでに竣工した10組の建築家による10軒の住宅が展示されている。出展者は、芦澤竜一、遠藤秀平、可児公一+植美雪、光嶋裕介、小引寛也+石川典貴、鈴木亜生、竹口健太郎+山本麻子、森田一弥、松岡聡+田村裕希、楯列哲也+山口陽登+杉浦良和の計10組である。それぞれが設計した住宅は、いずれも5-6年のうちに完成したもので、設計者の世代や地域を越えて同時代の住宅建築としてみせることが展示のコンセプトになっている。

△会場全体の様子
右手は芦澤竜一の「風の間」の展示

会場全体には散りばめられるように模型が配置されている。すべてが天井から吊られており、軽快に浮かぶように並んでいる。その間を鑑賞者が自由にまわることができる。展示構成は、ハミルトン塁によるものだ。

△会場中央付近から奥をみる

△会場奥から入口方向をみる
手前は小引寛也+石川典貴の「南阿佐ヶ谷の家」(共同設計:出口亮)

 

模型は上から20分の1、100分の1、500分の1と、3段階のスケールにあわせてつくられている。垂直に吊られた3つの模型それぞれが、建築のかたちや内部空間、環境や周囲の建物との応答、都市や風土に対するまなざし、に対応し、1軒の住宅を通して見える世界の広がりを率直に伝える。また、統一された視点を提示することで相対化し、かえって各作品のユニークさが際立つように工夫されている。

△光嶋裕介による「旅人庵」の3スケール模型

△鈴木亜生による「SHIRASU」の20分の1模型
ダブルスキンのシラスコンクリートブロックで覆われた住宅

△楯列哲也+山口陽登+杉浦良和による「神田淡路町の家」の500分の1模型
東京の過密都市に埋もれるように建つ

 

会場4か所に設置されたスクリーンには常時映像が流されている。英沿いは、本展のためにあらたに録り下ろしされた10の住宅のドキュメンタリー映像だ。10の住宅の移ろいゆく日常的な風景が淡々と映し出されていく。各住宅における実際の暮らしの様子だけではなく、人や動物のふるまい、風に揺らめく植物、など、動画ならでは表現を通して空間の気配を感じ取ることができる。映像は西尾圭悟によるもの。撮影は各住宅のご家族の協力のもの行われた。

△竹口健太郎+山本麻子による「SKYHOLE」の模型と映像
住まいの手の動きが映されている

△旅人庵の映像(後ろ)と可児公一+植美雪による「SOJA-O」(手前)
模型と映像をめぐりながら展示をみる来場者

△松岡聡+田村裕希による「裏庭の家」の模型と映像

 

会期中には3回にわけて10組の出展者が交代で登壇するトークイベントが催された。各回、最初に出展者によるプレゼンテーションが行われ、作品のコンテクストや設計の考え方が語られた。続いて、座談会形式に移行してトークディスカッションが行われた。小さな建築としての住宅から広がる建築家の視野を出発点に毎回異なる議論につながった。

初回の13日(光嶋裕介、森田一弥、小引寛也+石川典貴の3組が登壇)では、施主との対話や住宅の公共性など、周囲に応答するだけではない建築のたち方について、16日(芦澤竜一、遠藤秀平、鈴木亜生、可児公一の4組)では、住宅が発するメッセージ、新しい技術とそれぞれの建築家の得意技について、また19日(松岡聡、竹口健太郎+山本麻子、山口陽登の3組)では、設計の一般化や建築家のスタイルについて、などといったように。

トークの中で「襞(ひだ)がたくさんあるのが住宅」と光嶋がのべたように、住宅を切り口にして建築家めぐらす思考の広がりが、各回のトークから、会場の空間とともに、来場者と共有されたのではないだろうか。

△森田一弥による「Pentagonal-house」の解説の様子

△「RooftectureOT2」について説明する遠藤秀平

△最終日のトークの様子
平日にも関わらず多くの来場を集めた